「最近、母親や妻の機嫌が悪いことが多い…」
「ささいなことで感情的になり、まるでヒステリックになったようだ…」
と感じて、戸惑いや悩みを抱えていませんか?
あるいは、ご自身の感情の起伏が激しくなり、「どうしてこんなにイライラしてしまうんだろう」と自己嫌悪に陥っている60代の女性の方もいらっしゃるかもしれません。

60代の女性が時に感情的、ヒステリックになってしまうのには、実はご本人の性格だけの問題ではなく、心と身体の変化に根差した理由があります。
この記事では、その根本的な原因を5つの側面から深掘りし、ご本人もご家族も今日から実践できる具体的な対処法を分かりやすく解説します。
この記事を最後まで読めば、悩みの原因が分かり、心が軽くなるヒントが見つかるはずです。
60代女性がヒステリックになる5つの原因|性格や病気の可能性
かつては穏やかだった母親や妻が、60代になってから急に怒りっぽくなったり、感情の起伏が激しくなったりする。
あるいは、ご自身でもコントロールできないほどのイライラに悩まされている。
このような変化は、単に「性格が悪くなった」と片付けられるものではありません。
そこには、女性のライフステージにおける特有の、そして非常に複雑な原因が隠されている可能性があります。
ここでは、60代の女性が感情的に不安定になりやすい5つの主な原因について、心と身体の両面から詳しく見ていきましょう。

原因1:更年期以降のホルモンバランスの乱れと感情の起伏
多くの女性が経験する「更年期」。
これは閉経を挟んだ前後約10年間の期間を指し、女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌量が急激に減少する時期です。
エストロゲンは、妊娠や出産に関わるだけでなく、感情の安定に深く関わる神経伝達物質「セロトニン」の働きを助ける重要な役割を担っています。
セロトニンは、別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神を安定させ、幸福感をもたらす働きがあります。
しかし、更年期に入りエストロゲンが減少すると、それに伴ってセロトニンの分泌も減少しやすくなります。
その結果、脳内のホルモンバランスが乱れ、自律神経のコントロールがうまくいかなくなってしまうのです。
これが、理由のないイライラや不安感、突然の悲しみ、気分の落ち込みといった「感情の起伏」となって現れます。
ご本人にとっては、自分の感情ではないかのようにコントロールが効かず、非常に辛い状態です。
周りから見ると、その様子が「ヒステリック」と映ってしまうことがありますが、これは本人の意思とは裏腹に、ホルモンの大きな波に翻弄されている状態とも言えるのです。
原因2:役割の変化や社会からの孤立感がもたらす強いストレス
60代という年代は、人生における大きな転換期でもあります。
これまで人生の中心だった役割が、次々と変化していく時期なのです。

役割の喪失感がもたらす「空の巣症候群」
長年、子育てに奮闘してきた女性にとって、子どもの独立は大きな喜びであると同時に、心にぽっかりと穴が空いたような寂しさを感じさせることがあります。
これは「空の巣症候群(からのすしょうこうぐん)」と呼ばれ、母親としての役割を終えたことによる喪失感が、気分の落ち込みや無気力感を引き起こすのです。
夫の定年退職による生活の変化
また、夫の定年退職も大きな環境の変化です。
これまで日中は別々の時間を過ごしていた夫婦が、一日中顔を合わせる生活が始まります。
これにより生活リズムが崩れたり、一人の時間がなくなったりすることで、知らず知らずのうちに強いストレスを感じてしまう女性は少なくありません。
社会とのつながりの希薄化
仕事を持っていた女性であれば定年退職、地域活動や趣味のサークルも、年齢とともに参加が難しくなることがあります。
かつてのように社会との接点が減っていくことで、「自分はもう必要とされていないのではないか」という孤立感や疎外感を抱きやすくなります。
これらの役割の変化や孤立感は、自尊心を低下させ、将来への漠然とした不安を増大させます。
行き場のないストレスが内側に溜まり、ふとした瞬間に怒りやイライラとして爆発してしまうことは、決して珍しいことではないのです。
原因3:老年期うつ病や認知症の初期症状など、隠れた病気のサイン
感情の波が激しく、怒りっぽさが目立つ場合、背景に何らかの病気が隠れている可能性も考えなくてはなりません。
もちろん、安易に決めつけることは禁物ですが、知識として知っておくことは、ご本人やご家族を守るために非常に重要です。

老年期うつ病の可能性
うつ病は若い人だけの病気ではありません。
65歳以上で発症するうつ病は「老年期うつ病」と呼ばれ、特徴的な症状があります。
若い世代のうつ病に多い「気分の落ち込み」といった精神的な症状よりも、「頭痛」「めまい」「食欲不振」「不眠」といった身体的な不調が前面に出やすい傾向があります。
そのため、本人も周囲も「年のせいだ」と思い込んでしまい、うつ病であることに気づきにくいのです。
そして、この老年期うつ病の症状の一つとして、不安や焦りからイライラが募り、怒りっぽくなるというケースが見られます。
もし、感情の起伏だけでなく、これまで楽しめていたことに関心がなくなった、何をしても億劫がる、といった変化が見られる場合は注意が必要です。
認知症の初期症状としての性格変化
「認知症」と聞くと、多くの人が「物忘れ」を思い浮かべるかもしれません。
しかし、認知症の初期症状として、物忘れよりも先に「性格の変化」が現れることがあります。
例えば、これまで穏やかだった人が急に怒りっぽくなったり、疑い深くなったり、頑固になったりするケースです。
これは、記憶力の低下や状況判断能力の衰えに対する不安や混乱が、攻撃的な言動や感情の爆発として現れている状態と考えられます。
本人は、自分の能力が落ちていくことへの恐怖と闘っています。
その不安が、周りから見ると理解しがたい「ヒステリックな言動」として表出することがあるのです。
原因4:なぜ?60歳を過ぎて母親の性格が変わった・きつくなったと感じる理由
「優しかった母親の性格がきつくなった…」
「60歳を過ぎてから、まるで別人のように母親の性格が変わったように感じる…」
家族、特に子ども世代にとって、母親の変化は大きな戸惑いと悲しみをもたらします。
なぜ、そのように感じてしまうのでしょうか。

これまで見てきたように、ホルモンバランスの乱れ、社会的なストレス、そして病気の可能性といった要因が複雑に絡み合い、母親の言動に影響を与えていると考えられます。
それに加え、加齢による身体的な衰えも無視できません。
例えば、聴力が低下すると、何度も聞き返すことへの引け目や、会話の内容が正確に聞き取れないことへのイライラから、不機嫌に見えることがあります。
また、慢性的な膝や腰の痛みは、常時不快感を伴うため、心の余裕を奪い、性格を気難しくさせてしまう一因にもなり得ます。
家族としては、「昔の母親」のイメージに囚われるのではなく、「今の母親は、心と身体に様々な変化を抱えて大変な時期を過ごしているのかもしれない」という視点を持つことが、理解への第一歩となります。
性格がきつくなった、変わったと感じる背景には、本人も言葉にできない辛さや葛藤が隠れているのです。
原因5:60代女性が抱える情緒不安定は、家族とのすれ違いやコミュニケーション不足も一因
多くの場合、60代の女性が抱える情緒不安定な状態は、ご本人の内的な問題だけでなく、家族との関係性も大きく影響しています。
特に、長年連れ添った夫や、独立した子どもたちとの間で生じるコミュニケーション不足やすれ違いが、孤独感を深め、感情を不安定にさせる引き金になることがあります。

夫との関係性の変化
夫の定年後、夫婦で過ごす時間が増えたことで、かえって関係が悪化するケースは少なくありません。
お互いの価値観の違いが浮き彫りになったり、夫が家事に関心がなかったりすることで、妻側の不満が募ります。
「これまでの人生、ずっと我慢してきた」という思いが、定年を機に爆発してしまうこともあります。
このような状態は「夫源病(ふげんびょう)」と呼ばれることもあり、夫の存在そのものがストレスとなって、心身に不調をきたすのです。
子ども世代とのコミュニケーション不足
子どもが独立して家庭を持つと、親子の会話は減りがちです。
たまに連絡を取っても、孫の話や表面的な会話に終始し、母親が本当に抱えている悩みや不安にまで話が及ばないことも多いでしょう。
母親側は「心配をかけたくない」という思いから本音を言えず、子ども側は「元気そうだ」と安心してしまう。
この小さなすれ違いの積み重ねが、「誰も私のことを分かってくれない」という孤独感につながります。
その孤独感や寂しさが、家族に対して過度な要求や感情的な物言いとして現れることがあります。
家族から見て「高齢の母親がヒステリックになっている」と感じる時、その背景には、母親からのSOSが隠されているのかもしれません。
ヒステリックな60代女性への上手な対処法と家族ができる接し方
60代女性が感情的になる原因が、ご本人の性格だけでなく、様々な心身の変化や環境要因にあることを理解した上で、次にご本人自身ができること、そしてご家族がどう向き合っていけば良いのか、具体的な対処法を見ていきましょう。
大切なのは、一人で抱え込まず、適切な方法を知ることです。

【本人向け】イライラや怒りをコントロールするセルフケアと治し方
ご自身の感情に振り回されて辛いと感じているご本人に、まず試してほしいセルフケアの方法があります。
これは特別なことではなく、日常生活の中で意識を変えることで、心の波を穏やかにしていくためのアプローチです。
怒りの感情を客観視する(アンガーマネジメント)
カッとなった時、その感情に飲み込まれないためのテクニックがあります。
これはアンガーマネジメントと呼ばれる心理トレーニングの一種です。
- 6秒ルールを実践する
怒りのピークは長続きせず、長くても6秒程度と言われています。
強い怒りを感じたら、すぐに反応せず、心の中でゆっくりと「1、2、3、4、5、6」と数えてみましょう。
このわずかな時間で、衝動的な言動を抑え、冷静さを取り戻すきっかけになります。 - 感情を書き出してみる
何にイライラしたのか、どう感じたのかを、誰にも見せないノートに書き出してみるのも効果的です。
文字にすることで、自分の感情を客観的に見つめ直すことができ、「自分はこんなことで怒っていたのか」と冷静になれたり、問題の整理がついたりします。
生活習慣を見直して心身を整える
心と身体は密接につながっています。
生活習慣を見直すことは、感情の安定に直結します。
- 食事を意識する
女性ホルモンと似た働きをすると言われる「大豆イソフラボン」を含む、豆腐や納豆、豆乳などを積極的に摂るのがおすすめです。
また、セロトニンの材料となる「トリプトファン」を多く含む、バナナや乳製品、赤身の魚なども意識して食事に取り入れましょう。 - 適度な運動を習慣にする
ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなどの有酸素運動は、気分をリフレッシュさせ、ストレス解消に効果的です。
無理のない範囲で、毎日少しずつでも身体を動かす習慣をつけましょう。
新しい趣味や生きがいを見つける
家庭や仕事以外の場所に、自分のための時間と空間を持つことは非常に重要です。
これまで興味があったけれど時間がなくてできなかったこと、例えば、地域のカルチャーセンターに通ったり、ボランティア活動に参加したりするのも良いでしょう。
新しいコミュニティに参加し、社会とのつながりを保つことは、孤独感を和らげ、生活に新たなハリと喜びをもたらしてくれます。
【家族向け】高齢の母親がヒステリックな時に、話を悪化させない聞き方と距離感
ご家族、特に息子さんや娘さんにとって、高齢の母親がヒステリックな状態になっているのを見るのは辛いものです。
なんとかしてあげたいと思う反面、どう接すればいいか分からず、かえって状況を悪化させてしまうことも少なくありません。
ここでは、話をこじらせないためのコミュニケーションのコツをお伝えします。

まずは傾聴し、感情を受け止める
母親が感情的に何かを訴えている時、最もやってはいけないのが「否定」や「正論での反論」です。
「そんなことないよ」「考えすぎだよ」「でも、それはお母さんが悪い」といった言葉は、相手をさらに追い詰めるだけです。
大切なのは、まず相手の言葉を遮らずに最後まで聞くこと(傾聴)。
そして、その内容が正しいかどうかを判断する前に、「そう感じているんだね」「それは辛かったね」と、相手の感情そのものを受け止めてあげることです。
共感の言葉をかけることで、母親は「この子は私の気持ちを分かってくれようとしている」と感じ、少しずつ冷静さを取り戻すことができます。
感情的になっている時は物理的に距離を置く
話がヒートアップして、お互いに感情的になってしまった時は、一度その場を離れる勇気も必要です。
「少し頭を冷やそうか」「また後でゆっくり話そう」と提案し、物理的に距離を置きましょう。
同じ空間に居続けると、お互いに言わなくてもいいことまで言ってしまう可能性があります。
一度リセットし、お互いが冷静になった状態でもう一度向き合う方が、建設的な話し合いができる場合が多いのです。
母親が60代になり怒りやすくなった?変化を受け止め、冷静に対応するコツ
「母親が60代になり、急に怒りやすくなった」と感じる時、家族にはどのような心構えが必要でしょうか。
それは、過去の母親像に固執せず、今の母親の変化をありのままに受け入れることから始まります。

「昔はこうだったのに」と比較しない
「昔はもっと優しかったのに」「昔はこんなことを言う人じゃなかった」と過去と比較してしまうと、現在の母親の姿を否定することにつながります。
人は誰でも、年齢とともに心も身体も変化します。
その変化には、本人にもコントロールできない様々な要因があることを理解し、「今の母親」と向き合うことが大切です。
相手の言動を自分への攻撃と捉えない
母親からの厳しい言葉や感情的な言動を、真正面から受け止めてしまうと、家族も深く傷つき、疲弊してしまいます。
「これは私個人への攻撃ではないかもしれない」「何か他に辛いことや不安なことがあるのかもしれない」と、一歩引いて考えてみましょう。
母親の言葉の背景にある、本当の感情やSOSは何かを想像する視点を持つことで、冷静に対応しやすくなります。
家族自身の心の健康も守る
母親を支えるためには、支える家族自身が心身ともに健康であることが不可欠です。
一人で抱え込まず、兄弟姉妹や配偶者と悩みを共有し、協力体制を築きましょう。
時には、自分のためのリフレッシュの時間を持つことも忘れないでください。
家族が倒れてしまっては、元も子もありません。
義母や妻へのストレスを軽減する環境調整と上手な関係性の築き方
対象が義母や妻である場合も、基本的な向き合い方は同じです。
しかし、関係性が異なる分、少し違ったアプローチも有効になります。

役割分担の見直しや家事の協力
特に夫婦間では、家事や介護などの負担が妻側に偏っていることが、不満やストレスの大きな原因になっている場合があります。
「言われなくても気づいてほしい」と思っていても、言葉にしなければ伝わりません。
「何か手伝うことはある?」と声をかけたり、具体的な家事の役割分担を見直したりすることで、妻の負担と精神的なストレスを大きく軽減することができます。
感謝の気持ちを言葉で伝える
長年連れ添っていると、お互いの存在が当たり前になり、感謝の気持ちを伝える機会が減ってしまいがちです。
「いつもありがとう」「美味しいご飯をありがとう」など、ささいなことでも言葉にして感謝を伝える習慣をつけましょう。
感謝の言葉は、相手の自己肯定感を高め、関係性を良好に保つための潤滑油になります。
これは、義母との関係においても非常に有効なアプローチです。
二人だけの時間を作る
義母との関係で悩んでいる場合は夫に間に入ってもらうことも大切ですが、夫婦関係においては、子どもや他の家族がいない「二人だけの時間」を意識的に作ることも重要です。
一緒に食事に出かけたり、共通の趣味を楽しんだりすることで、お互いの気持ちを再確認し、関係性を再構築するきっかけになります。
専門家への相談も重要|病院は何科を受診すべき?利用できる窓口一覧
セルフケアや家族のサポートだけでは改善が難しい場合や、明らかに病気が疑われるような症状が見られる場合には、専門家の力を借りることも非常に重要な選択肢です。
ご本人が受診をためらう場合は、まずご家族だけでも相談に行くことができます。

身体的な不調が強い場合:婦人科
ほてり、のぼせ、動悸、多汗といった身体的な症状が強く、更年期障害が疑われる場合は、まず婦人科への相談が考えられます。
ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬など、症状を和らげるための様々な治療法があります。
気分の落ち込みや不安が強い場合:心療内科・精神科
気分の落ち込みが激しい、何事にも意欲がわかない、眠れない、不安で仕方がないといった精神的な症状が中心の場合は、心療内科や精神科が専門となります。
うつ病などの心の病気に対して、適切なカウンセリングや薬物療法を受けることができます。
物忘れなどが気になる場合:脳神経内科・精神科(もの忘れ外来)
物忘れが目立つ、時間や場所が分からなくなることがある、といった症状が見られ、認知症が心配な場合は、脳神経内科や、精神科に設置されている「もの忘れ外来」などが相談先となります。
早期に診断を受けることで、進行を遅らせる治療を開始できる場合があります。
どこに相談していいか分からない場合:地域包括支援センター
「どの診療科に行けばいいか分からない」「本人が病院に行きたがらない」といった場合には、お住まいの市区町村にある「地域包括支援センター」に相談するのがおすすめです。
ここは、高齢者の健康や福祉、介護に関する総合的な相談窓口です。
保健師や社会福祉士などの専門家が、状況に合った適切な機関やサービスを紹介してくれます。
まとめ:60代女性がヒステリックになる原因を理解し、より良い関係を築くために
60代の女性が時にヒステリックとも思えるほど感情的になるのは、決してわがままや性格だけの問題ではありません。
この記事で解説したように、その背景には更年期以降のホルモンバランスの乱れや、子どもの独立、夫の定年といったライフステージの変化に伴う大きなストレスが深く関わっています。
また、ご本人も気づかないうちに、老年期うつ病や認知症といった病気が隠れている可能性も考えられます。
ご家族から見て「母親の性格が変わった」と感じる時、それはご本人が心と身体のつらい変化に必死で耐えているサインなのかもしれません。
大切なのは、ご本人はセルフケアで心を労り、ご家族は「なぜ?」という原因を理解した上で、話をじっくり聞く、気持ちを受け止めるといった上手な接し方を心がけることです。
感情的になっている時は無理に向き合わず、適切な距離を保つことも、お互いを守るために重要です。
原因を知ることは、理解への第一歩です。
ご本人もご家族も、一人で抱え込まず、この記事でご紹介した対処法を試しながら、お互いを思いやることで、きっとより穏やかで良好な関係を築いていけるはずです。